ととのべ1

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「ううう、迷ったかな…」

鬱蒼とした森の中、少女は一人歩き続ける。
スリングにつり下げた突撃銃、腰には拳銃、ナイフ。
ふさふさの耳に尻尾、そして防弾ベスト、雑嚢。

「クライアントめ、なんであんな所で放り出すかね。」

彼女の名はリーリャと言う。
フリーの傭兵、15歳女。猫の獣人。
今は一流の傭兵になるために修行中…のはずだが、
現在絶賛迷子中。

「うう、この森ヤウェ族が住んでるんだよなあ…会わなきゃいいけど。」

手持ちの弾を確認する。
突撃銃は残り1マガジンと5発、拳銃は2マグ。
どうも心もとない。

「黎明の空に訴えようかな。規約違反クライアントって。」

鬱蒼とした森を、時にナイフで切り開き、コンパスたよりに歩き続ける。
地図はないが、街の雑多な匂いが流れてくる方向へ進む。
しかし、歩けど歩けど、一向に街は見えてこない。
森に放り出されたときはまだ明るかったのに、森はもう暗く、明かりが無くては足元すら見えない。
夜目が効くのでさほど気にならないが。

「野宿するかなあ。」

幸い、食料はあるのだ。

「うーん、報酬の受取期限は明日なんだけ…ど?」

ああ、そうか。これが狙いか。
報酬不払い。しかも弾薬代はこちら持ち…
なんということだ。ただでさえ貧乏旅人なのに。

「はあ。ひどい話だなあ…」

とにもかくにも、野宿の場所を確保しなくては。
拓けていて、地面が平であればどこでも構わない。
ついでに火を起こしたいので、薪を探す。

「春先なのに、なんでこんなに寒いのかな…山だからかなあ」

太い物から細いものまで、手当り次第に枝を拾う。
草の根を書き分け、野宿によさそうな場所にたどり着く。
そこに薪を広げ、細い物から太い物へと積み上げる。
中心に着火剤をひとかけら。
ライターで着火。一気に火は広がった。
ともに、周囲に温かみが広がる。

折りたたみ式の鍋スタンドを取り出して、シェラカップに水筒の水を満たして火にかける。
お湯が沸くまでの間に拳銃を簡単に分解、軽く清掃する。
危うく清掃用ブラシを火に投げ込むところだったが、無事にお湯が沸く。

雑嚢をあさり、レトルトのカレーを取り出す。
というか、カレーしかない。
何故かご飯だけ切らして、カレーだけが余っているのはなぜだろうか。

「もうすこしマシな食糧持ってきた方がよかったなぁ。」

鍋にぶち込む
レトルトは温めるだけだから楽である。
待つこと十分、おいしいカレー(だけ)が出来上がりである。
盛り付ける皿もないので、直接啜るほかない。

「…、やっぱりご飯が欲しいよ。」

開け口が小さく、引っかかった人参に苦戦していたその時である

「む?」

周りの空気の異変に気づいた。
誰かがこっちに近づいている。
こちらに気づかれないように近づく気がないのは足音からわかる。
そう装っているか、隠れるほど知能が無い可能性もある。
誰がこようにも、警戒するにこしたことはない。

ホルスターに拳銃を確認、ライフルを背負う。
口にはレトルトパックを咥えたままだが。
音を立てないように、木の影に身を潜める。
来客は草を掻分けやってきた。

黒毛に金髪、頭に赤いバンダナの小柄な兎の獣人。
皮のジャケットに迷彩のズボン。
そして背負っているのは、身長の二倍近い長さの麻袋。
おそらく得物であろう。あの長さ、剣か?
件であるなら、一定距離おけばおそらく

焚き火とお湯を見て、お湯の中のレトルトパックを見て、
取り出そうか迷っているように見える。
このまま飯だけ盗られるのもあれなので、

「動くな!」

ライフルを向け、木の影から飛び出す
相手はびっくりしている。無理もないが。

「うわ!だれだおまえ。」
「それはこっちのセリフだ。名乗れ。」

相手は両手を上にあげる
そして名乗る

「オレはぴょ…バルカンだ。バルカン。」
「ぴょ?」
「いいから。名乗ったぞ。オマエも名乗れよ。」
「あたしはリーリャ。よろしく。で、あんたはこんなところで何をしてるんだい?」
「オレは…仕事の途中だ。別に迷ったわけじゃ…あ。」

ため息を一つ。こいつも迷ったのか。
道案内させようと思ったのに。
バルカンは慌ててつけくわえた。

「え、獲物を追っかけてたらこんなところに来ちまったんだ。迷ったわけじゃねえ」
「じゃあ、あたしを町まで案内してくれないかい?」
「うぐっ…」

バルカン、そう名乗った黒兎は、言葉に詰まる。
迷ったに違いない。

「迷ったんだ?」
「うっせえなあ…」
「まあいい。敵意が無いなら飯をわけてもいいよ。カレーしかないけど。いる?」

鍋を指差す。
そこには未開封のレトルトパックがある。
別に腹は減ってないと言いながら、しっかり涎を垂らしているバルカン。
レトルトパックを鍋から出し、バルカンに押し付ける。

「食わなきゃ明日帰れないぞ。食え。」
「…わかったよ。もらってやる。」

バルカンはカレーをすすり始める。
嫌いではなくてよかった。

「獲物を追って迷ったの?」
「そうだってんだよ。うるせえなあ。」
「何の獲物?」
「むぐ、街で刀の盗難事件が多発しててさ、現場に決まって現れる、このくらいの、白くてふわふわした生き物を探してるんだ。」
「白くてふわふわ…?」

手で、いや、全身を使って表した大きさは、リーリャより大きい。
見た目は毛玉に細い足にちょこんと尻尾、つぶらな瞳と三角耳がついているそう。

「…ものすごく可愛いんじゃないの?」
「実際かわいいらしい。でも、毛の中に刀を隠してる。それが盗品。」
「…そいつ、知ってるかもしれない。」

昔、聞いたことがある。
ふわふわした毛玉みたいな、刀を盗んで体毛に隠す生物がいる、と。
その生物にうかつに近づいてはならない、とも。

「そいつを倒すのか?」
「いや、見つけたらこの花火を揚げるんだ。」

ポケットから出したのは信号弾。
発射機のいらない使い捨てタイプ。

「揚げると?」
「自警団が来る」
「ふーん」

火が弱くなったので薪を足す。
焚き火が暗い森を照らし続ける。
しばらくの沈黙。
静寂を破ったのはリーリャだった。

「ところでバルカン、」
「なんだ?」
「お前の武器はなに?」

気になっていた武器の話題を振る。
バルカンはにやりと笑う。
まるで聞かれるのを待っていたかのように

「ニルヴァーナだ。」
「ニルヴァーナって、その麻袋の?」
「そう、銃だよ。」

と、バルカンは麻袋を開ける。
その中から現れたのは、銃ではない。砲だ。
どでかい。麻袋の時点で大きさはリーリャ並。
口径も半端ではない。
20、いや30ミリはあるだろう。

「こんなのを…あんたが振り回すのか?」
「ああ」

反動も半端なものではないだろう。
リーリャでも扱えるか微妙なところである。
それを扱えるのだ。バルカンの腕力、体力は半端な物ではないだろう。
ものすごく威力も高そうである。が、こんなに長いものでは接近されたらおしまいである。
どうするのかきいてみると、ニルヴァーナを振り回す、とか。

「本当に振り回すんだな。」
「ああ。ところでオマエの武器は?」
「あたしの武器は、バトルライフルと拳銃、ナイフ。」
「へえ。それか?見せろ。」
「かまわないよ。あ、弾抜いとくからちょっと待って。」

「どこの銃だ?」
「ビスティアの東の方にある島国、『日の国』の柏葉工業って会社のBR-06"葉桜"」
「ふーん。バトルライフルなら、七ミリか?」
「そうだよ。」
「ふうん。拳銃は?」
「POD-18。九ミリ。いろいろ弄ってあるよ。」
「へえ。そういえば街で新しい銃の広告をもらったんだ。」
「え、おしえておしえて」
「顔が近い。それがだな…」

バルカンとリーリャは銃が好きと言う事で意気投合したようで、
その後は、夜が更けるまで銃についての談義で盛り上がっていたのだった。

腕時計の短針が11時をさした所で、バルカンが寝る事を提案してきた。
寒いので、何かにくるまって寝ないと風邪、運が悪ければ凍死か。
もちろんそのために寝袋は常備してある。が、

「一人ようなんだ。」
「オレに外で寝ろって言うのか?」
「一緒に寝たいなら寝てもいいよ?かなり大きいから入れると思うよ?」

一人用、となっているが、身長二メートル以上ある竜人も寝れるようにと作られているため、
リーリャが寝てもまだまだ隙間がある。

「さ。入れ。」
「んなこと言われても。オレは男だが?」
「何か問題でも?」
「オマエは女だぞ?」
「何か問題が?」

戦場では男とか女だとか言っていられない場合が多かったので、リーリャはもう慣れっこである。
金がないときはこの方法で、若い旅人と相部屋をしたりしている。
もちろん、襲われたことも無くもないが、殴り倒したり撃ち殺したりしてなんとかなっている。

「いやいやいや、問題ありすぎだろ。」
「いやいやいや、問題なさすぎだろ。」

バルカンは顔を真赤にしている。
さすがに女の子と寝ることに慣れてないか。
というか、慣れてる方がおかしいのだろう。

「とにかくだ、緊急時だ仕方ない。入れ。」
「やだ」
「つべこべ言わず入れ!」

リーリャはバルカンを引っ掴んで寝袋に叩き込む。
身長が100無いから片手で楽々である。

「むぐ!」
「で、おとなしく寝ろ!襲わないでね!」
「襲わねーよ!」

バルカンはすぐにおとなしくなる。
リーリャは念のためホルスターを外さないで寝る。
すぐにバルカンは寝息を立て始める。
早い。

木々の間から見える月明かりがまぶしい。
明日には街につけるだろうか。
そしてバルカンの依頼も気になる。街におりる前に少し手伝うか。

そんな事を考えているうちに、リーリャは眠ってしまった。


ーつづく


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